“ピクサーCCO”ピート・ドクターが語る 「面白いね」で終わらない“観客を驚かせ続ける映画作り”の方法
ドクター:『トイ・ストーリー』(1995)のストーリー部門のトップを務めていた故ジョー・ランフトがかつてこう言いました。「意味の出現は、それ自体が意味なのである」と。これは、まさにそういう話だと思います。もしあなたがあるシーンについて、そのように感じたのであれば、物語がそう語りかけているということになるわけです。これこそ、我々が芸術を作り出す理由だと思います。だからもしあなたがそう解釈するのなら、それは素晴らしいことです。たとえ私たちがそのように意図していなかったとしても、どんな解釈でもウェルカムです。
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――最後に、ピクサーという世界的な作品を作るスタジオのクリエイティブのトップとして、映画の制作に伴う社会的責任と、アーティストとしてのやりたいこととのバランスはどのように取られているのか教えてください。
ドクター:とてもいい質問ですね。私が若かった頃は、社会的な責任についてそれほど心配することはなく、ただ作っていたという感じでした。その当時から常に、私たちの作る芸術は、そこに真実味がある限り、みんなが認めてくれると思っていました。語り手としての私たちの第一の責任は、語り手である私たちが見たままの世界を描き出すことですからね。
一方で、要求とか需要っていうわけではないですが、現在人々は社会の中のいろいろな人たちを代表する声があることを感じたいと思っているし、誰がその物語を語るべきなのかということについて意識するようになっています。
例えば男性である私が、女性の物語を語って良いのか。描かれることが少ない文化について語って良いのか。私が共同監督を務めた黒人男性が主人公の『ソウルフル・ワールド』(2020)ではそのような難しい問題に直面しました。
ですから正直言って、とても難しいバランスです。観客は新しくてユニークなものを求めていますが、同時に慣れ親しんだものも求めています。描くのに最適なものを見つけるのはどんどん難しくなっています。映画がたくさん作られれば作られるほど、「前にも見たことある」「ああこのタイプね」「この構造ね」といった反応が出るようになってしまうからです。
私が思うに、観客を驚かせ続けるための最善の方法は、さまざまな背景を持つ人たちが前に出て、その人ならではのユニークな物語を語るようにすることです。そしてその物語を、同じ立場にいない人にとっても意味のあるものにしたいのです。
観客が登場人物と同じシチュエーションに置かれたことや、同じ経験をしたことがなかったとしても、「へえ面白いね」で終わるのではなく、「その気持ち分かる!」「それ!まさに自分にもあった!」となるようなストーリーを見つける必要があると思っています。だから、ユニークで多様な語り手を見つけることが重要なのです。
(取材・文:山本恭輔 写真:阿部桜子)
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