三谷幸喜、田中圭は「すごい人」 12年ぶり人気シリーズ新作に「日本で最もふさわしい」と語る所以
――松山さんの演じる太宰も、これまで見たことのない太宰で、非常に魅力的でした。しかも田中さんと松山さんは本格的には初共演だったんですね。意外です。
三谷:小池さんと梶原善、宮澤エマさんに関しては、何度も仕事を一緒にやって信頼している人たちなので、この人たちがいれば何が起こっても平気だという安心感がありました。でも太宰に関しては、何よりも独特な存在感が欲しいと思いました。今までいろんな映像作品に太宰が登場しましたが、みんなちょっとカッコつけてて、いけ好かないんです。
――(苦笑)。
三谷:だけど実際の太宰の若い頃の写真なんかを見ると、変顔で写っていて、ふざけて芥川龍之介の真似をしている写真とかもある。このお茶目な感じと、作品から感じられるような、どこか人間としての悲しみもある。そうしたいろんな面を持った太宰で、かつどこか太宰に似ていて欲しいと思ったとき、松山さんが浮かびました。
『ドラマW 三谷幸喜「おい、太宰」』場面写真(C)WOWOW
――本作の太宰は津軽弁です。
三谷:松山さんが「僕は津軽弁でいきたい」とおっしゃったんです。もともと松山さんは太宰のことがすごく好きで、しかも同県人。それで、もともと標準語で書かれていた台本のセリフを、ネイティブすぎない、程よい加減の津軽弁に、松山さんが直してくださいました。
■“シリーズ皆勤賞”梶原善、実は超忙しい役「老人にやらせることじゃない」
――本シリーズ3作のすべてに出演している梶原善さんは、今回、なんと1人3役。衣装を変えながら、現代パートにも過去パートにも登場し、大活躍です。
三谷:梶原善は、その大変さが画には映っていないのですが、相当大変だったんです。本編の現代の浜辺から過去の浜辺って、田中圭さん演じる主人公が通ってタイムスリップするトンネルしか、移動手段が実際にないんです。
――物語上、過去と現代をかなり行き来しますが、外から回り込めないのですか?
三谷:回れないんです。それだととても時間がかかって間に合わない。だから梶原善は、田中さんを撮影しているカメラマンのうしろにくっつきながら、一緒にトンネルを移動して、映っていないところでバーッと衣装を着替えて登場しています。昔の生放送のドラマみたいな感じです。
『ドラマW 三谷幸喜「おい、太宰」』場面写真(C)WOWOW
――そうなんですね! 先回りして着替えて待機しているのかと。それでももちろん大変ですが、一緒に移動して、すぐそばで着替えていたとは。ということは、田中さんは梶原さんの早着替えを横目に、芝居を続けていたと。
三谷:そうなんです。前回から10年以上経っているので、梶原本人も「老人にやらせることじゃない」と言ってました。田中さんも梶原善もすごいですよ。僕はワンシーンワンカットの一番の魅力とは、やっぱり俳優さんだと思うんです。今回も田中さんが疲れた芝居をしているのではなく、ぜひ本気で疲れている田中さんを見ていただきたい。これはドキュメンタリーです。