「個の力信じてる」増幅する “心の壁”、パレスチナ人俳優が語る平和への糸口
本作は100%パレスチナ資本で、スタッフ・キャストともすべてパレスチナ人、撮影もパレスチナで行われた。「この映画はパレスチナ地域では大成功したと思っています。パレスチナでは9~10歳くらいの子供でさえ、この映画を観てくれました。『オマールの壁』によって子供から大人までが一つになったんです。これまでのパレスチナでは起こりえなかったことです」とバクリは胸を張る。さらにイスラエルでも上映されたそうで「アートハウスのような限定的な場所でしたが、イスラエルでも上映されるところがあったんです。割とスムーズに事が進んだことは、心地よい驚きでした」と笑顔をみせる。
さらにカンヌ国際映画祭「ある視点」やアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされるなど広がりを見せている。「国によってさまざまな人がいるし、考え方も違うと思います。この映画を観た人が、登場人物に自分を投影してみて、色々なことを考えてくれたら嬉しい。映画とはそういうものだと思うんです」とバクリは語る。
本作で描かれているイスラエルとパレスチナの問題をはじめ、文化や宗教の違い、そして過去の歴史によって近隣諸国との対立は世界中で問題になっている。日本も例外ではなく“心の壁”を破るのは容易ではない。そんな現状に「私は映画に出る仕事をしている人間なので本作のような映画に出演して、人を愛することの大切さを広めていければと思っているのです。相手がユダヤ教だったりキリスト教だったり、はたまた仏教徒だったりと世界中には色々な人がいますが、一人の人間として付き合っていきたい。私は個の力を信じているんです。例えば自分の子供に『愛を広めなさい』と言えば、その子供がまた別の人に愛を広めていく……というようになっていけば、きっと世界から紛争がなくなっていくと信じています」と力強く語ってくれた。(取材・文・写真:磯部正和)
『オマールの壁』は角川シネマ新宿、渋谷アップリンクにて公開中。ほか全国の劇場で順次公開。