半世紀を経てなお輝きを増す『悪魔のいけにえ』 “地獄の入口”が導く怪奇趣味と世俗風刺――底なしの魅力を考察する
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1974年の製作から半世紀を経てなお、色褪せないホラー映画の金字塔『悪魔のいけにえ』。日本初公開時には偏愛を込めて「面白い邪劇」と評されつつも、ビデオやDVD、ブルーレイとメディアの変遷とともに新規ファンを獲得。先頃も『悪魔のいけにえ 4Kデジタルリマスター 公開50周年記念版』が劇場リバイバル上映され、新たな観客(いけにえ)の脳裏に生涯消えない戦慄を刻み込んだ。監督のトビー・フーパー自身が「二度と作れないし、作る気もしない」と語った異様な衝撃は、歳月とともに輝きを増すばかりだ。そんな伝説の傑作を解剖・分析するドキュメンタリー『チェイン・リアクションズ』(2024年)がこれまた面白い。作品考察だけで別の映画をもう1本、成立させてしまう大胆不敵な『悪魔のいけにえ』。その底なしの魅力とは何か、ひも解いていきたい。
【写真】肘かけに“人の手”・・赤い壁には大量の動物の骨 『悪魔のいけにえ』の美術
■ヴィジュアル:美しい外観と醜悪な内部、人間を呑み込む地獄の口
ホラー映画の肝となるのは安穏とした日常から、何でもありの恐怖が潜む異世界へと観客を引き込む手管だ。『悪魔のいけにえ』では田舎の農地に建つ白壁の一軒家を訪ねた青年が、玄関先で薄暗い廊下の奥にぽっかりと空いた異様な赤い空間を目撃。そこから聞こえる奇妙な物音に誘われるように邸内に足を踏み入れ、最初の犠牲者になる。
赤は“地獄の入り口” 映画『悪魔のいけにえ』(1974) 写真:Collection Christophel/アフロ
『チェイン・リアクションズ』は、犠牲者を呑み込むこの深紅の空間を「地獄の入口」と読み解く。トビー・フーパー監督がスティーヴン・キングの原作を映像化した『死霊伝説』(1979年)にも、吸血鬼の棲む館の廊下に動物の骨を飾った赤い壁があり、『ポルターガイスト』(1982年)では狭いクローゼットに開いた霊界への通路が少女を呑み込んでしまう。
フーパーの映画にはまるで無邪気な童話から飛び出したような「地獄の穴」がそこかしこに開いている。監督は幼い頃、父親の経営するホテルで8ミリ映画を撮っていた。彼にとって、日常空間を一歩踏み越えた先、例えばドアの向こう側を別世界に見立てる「ごっこ遊び」の目線は、自然と怖い映画作りの原点になっていたのではないだろうか。
地獄の前に広がるのは絵葉書のように美しい風景 映画『悪魔のいけにえ』(1974) 写真:Collection Christophel/アフロ
『悪魔のいけにえ』にはもうひとつ、忘れ難いショットがある。いけにえ屋敷の庭先でブランコに腰かけた女性が、ボーイフレンドが襲われた物音を耳にして、無防備に館へ近づいてゆく。その姿をローアングルから捉えた移動ショットだ。画面の上部には抜けるような青空が広がり、静かに揺れる緑の木立の奥に白い屋敷が現れる。絵葉書のように美しい夏の原風景。だが、その扉を一歩くぐると、邸内は床一面に死骸が散らばり、骨と皮で組み上げた調度品が並ぶ居間が現れる。そして、深紅の口腔の先はまさに“悪魔のはらわた”。人体と同じく美しい皮膚を剥ぐと、醜悪で混沌した内部が露呈する。扉一枚で激変するヴィジュアルは、恐怖へ急転する境界線として機能しているのだ。

