『豊臣兄弟!』前半戦、“涙腺攻め”3キャラの物語 信長の孤独、市の心の鎧、直の愛
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そんな信長を一番近くで見てきたのが妹の市だ。「私も男に生まれたかった」と言っていた通り、本来なら右腕として戦場にも赴きたかった市。信長が信勝に裏切られ、苦しんだことも知っている。そんなお市が長政のもとに、いわゆる人質として嫁いだのは、兄のためならばという一心からだった。祝言の席のときから、市のことを気遣っていた長政は、いわゆる“強い”兄とはまるで異なるタイプで好みとは思えなかったが、長政は、信長とは違う“強さ”を持っていた。
第11話。信長からの鏡の京土産をうれしそうに見つめる市。実は同じく市のために鏡を買っていた長政は、渡せずにいた。自分を思う長政のやさしさに心を動かされ始めていた市は、信長からの鏡を炎の中に捨てる。しかしそれを見た長政は「大切なものを捨てる必要はない」と手にひどいやけどを負いながら、市のために火の中に手をつっこんだ!
すでに浅井家の嫁である身にも関わらず、兄を大切に思う気持ちを含めて、まっすぐ自分を思ってくれる長政の姿に、市の心の鎧が外れた。人質としてわたった武将に向けてつけていた織田家の鎧というだけでなく、市というひとりの人間としてずっと自分を覆っていた鎧を脱いだ瞬間でもあった。長政のもとに駆け寄る市。市は、信長にも見せたことのない弱い自分をさらすのだった。涙。
演じる宮崎あおいは、いまだ、かわいらしさがイメージの先に立つ人でもあり、宮崎の市には、当初「かわいらしすぎるのではないか」という声が聞かれたこともあった。しかし、小一郎、藤吉郎らサルを相手にする際の、気の強さも入ったキュートさや、信長と接する際の、ふとしたときに見せる慈しみに満ちた顔、そして兄を思う強さと、幾重にも感じさせる人物像を見せてくれる。なかでも、長政のもとに嫁ぐと決まった際の、織田の者としての覚悟が伝わる凛とした姿は本当に美しかった。加えて長政と出会ったことで見えてきた“弱さ”が実に魅力的だ。
中島歩の演じる長政は、妻を庇護するのではなく、手と手を取り共に歩む相手として寄り添う。だが長政は、先にも触れた通り、結局、信長を裏切る道しかなくなっていく。朝倉家と父・久政(榎木孝明)からの圧力、人質になっている息子、そして市も引き合いに出され……。視聴者としては「そなた(市)は織田と浅井の架け橋だ」と言っていたのに~! と叫びたくもあったが、戦国の世にはやむを得ない判断なのだろう。そのことは市も分かっている。
小豆袋の一件も、長政は分かっていた。浅井を裏切った行動が久政らに知られぬよう、罪を1人でかぶって斬られた織田の密使を、覚悟を持って見つめる市と長政。長政と共にある覚悟を、市は自ら選んだ。

