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実写『るろうに剣心』10年の歩みから成功の要因を振り返る

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●邦画を世界レベルに押し上げた谷垣アクション監督の挑戦

 一方、この映画のもう一つの核であり、最大の見せ場であるアクションシーンは、倉田アクションクラブで基礎を学び、香港映画で腕を磨いた谷垣健治監督に任された。大友監督から、「感情が見えるアクション」というオーダーを最初に受けたそうだが、『最終章』ではさらにハードルが上がり、今回は「濃密な感情がほとばしるアクションを目指してほしい」という依頼を受けたという(プレス用パンフレットより)。

 その要求はシリーズを追うごとに過激さを増し、「前作を超えるアクション」「限界突破」などが毎回の合言葉になっていくが、『The Beginning』で描かれた巴との一件で、不殺(殺さず)の誓いを立てた剣心は、逆刃刀(さかばとう)に持ち替え、敵と対峙(たいじ)する生き方を選択したことから、この特徴を利用して谷垣監督は、当たっても大けがには到らない“模擬刀”を開発している。これによって、俳優は段取りを気にせず、本気で人を斬りにいく勢いがつき、かつて観たことのないスピード感やリアリティーを生み出すことに成功した。

映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
 さらに、戦いの臨場感を出すため、マスターショット(基本になる定位置からのワンシーンワンショット)を多く採り入れたり、俳優の気持ちを切らさないために、カメラマンが彼らのアクションに合わせて動いたり、はたまたワイヤーワークであの独特のドリフト走行を開発したり…ありとあらゆる挑戦を『るろうに剣心』シリーズに持ち込んでいる。

 1作目でインタビューをした際、佐藤は「アクション部の方々に、手取り足取り教えていただいた」と話していたが、本作では、「アクション部と話し合いながら、“ぬるいアクションになるくらいだったらカットしたほうがいい”という共通認識で、動きを決めていった」と頼もしい発言をしているが、この意識の変化も谷垣イズムが浸透した表れと言えるだろう。

●ONE OK ROCKの音楽が醸し出す『るろうに剣心』の世界観

 『るろうに剣心』シリーズを語る上で忘れてならないのは、ONE OK ROCKのナンバーだ。今でこそ、「彼らでなければ剣心の世界は描けない」と豪語しても異論が出る余地はないが、パート1制作時、佐藤健が剣心役でなかったら、彼らは少なくともこの作品とは縁が薄く、また違った道を歩んでいたことだろう。

 時を戻せば学生時代、まだまだ発展途上にあったONE OK ROCKの音楽をたまたま友人のイヤホンで聴いた佐藤は、Takaの声に一撃された。以来、ライブへ足繁く通うようになり、やがて同じ事務所、同じ学年であることを知り、徐々に友人関係を深めていく。そんな時に届いた剣心役のオファー。佐藤は、「自分が主演をやるのなら、ONE OK ROCKの音楽を使ってほしい」と後押ししたそうだが、それは単なる友情だけではなく、彼らの音楽が『るろうに剣心』シリーズに一番ふさわしいと本能的に嗅ぎ分けていたからではないだろうか。

 オフィシャルインタビューでTakaは、「時代を変えるために前に突き進み、そのために剣を振るって相手を倒していく。圧倒的に孤独であって、優しさも寂しさも持ち合わせている剣心の人間性にフォーカスし、僕たちのバンドの方向性をリンクさせながら曲を作ってきた」と語っているが、シリーズを追うごとに壮大になっていった彼らの音楽は、Takaが一番好きだという最新作『The Beginning』で、ピアノソロから始まる“哀愁”に満ちたエモーシナルな楽曲へと行き着いているところも興味深い。

映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
 前述の『ボクらの時代』でTakaは、「僕の中にある哀愁は両親(森進一、森昌子)の影響。子どもの頃から歌謡曲を聴いて育ったので、洋楽に憧れながらも日本人ならではの哀愁が体に染み込んでいる」と告白しているが、武士の心模様を描くサムライ映画に彼らのロックが自然とリンクしたのも、Takaのそういったメンタルも影響しているからだろう。「曲を作っていても、いつも哀愁が出過ぎてしまうので、かなり抑えている」という意外な裏話に、彼らの音楽が剣心と共に歩めるのは、「そういうことか!」と腑に落ちた。かっこいいだけじゃない、そこに流れる哀愁に満ちた日本人の心…ONE OK ROCKの音楽がなかったら、『るろうに剣心』シリーズの世界観は、きっと凡庸なものになっていたことだろう。

 類まれな原作のもとに集結した佐藤健、大友監督、谷垣アクション監督、そしてONE OK ROCKの壮大な音楽…個性あふれる共演陣のがんばりも相まって、『るろうに剣心』シリーズは、とてつもない奇跡を起こした。(文・坂田正樹)

 映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』は公開中。

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