アリエル役・豊原江理佳「素晴らしいものは届いていく」 実写版へのいろいろな意見に理解も思いは真っすぐ
ディズニーヒロインという夢を叶えた豊原は、1996年生まれの27歳。2008年に『アニー』で主役の座を射止め、デビューを果たした。高校卒業後はニューヨークに留学し、帰国後はミュージカルを中心に映画やドラマで活躍をしている。
芸能の世界に足を踏み入れたきっかけについて、「父親がミュージシャンで、小さな頃から音楽に触れてきました。母が市民ミュージカルのチラシを見せてくれたことをきっかけに、舞台の上で表現することの楽しさを知りました」と振り返るが、コロナ禍以前と以降では、女優業に感じる醍醐味に変化が生まれたという。「コロナ禍以前は、舞台の上で自由を感じたり、いろいろな表現ができるということにやりがいを感じていました。すべてベクトルが自分に向かっていたんですね。でもコロナ禍に突入して、『私たちの役割ってなんだろう』とたくさん考えて。今では観客の方に『届けたい』という思いが、一番のやりがいになっています」としみじみ。「アリエルは、小さなことに幸せを感じることや、自分の中に希望を持つことの大切さを伝えてくれる。本作を観たときにも『エンタメには力がある。決してなくなっていいものではない』と改めて思いました」と力強く語る。
■自分に貼っていたレッテル「周りのみんなと同じになりたい」
劇中では、人間と人魚の間にある壁も描かれる。アリエルは自分の心の声に耳を傾け、その壁を力強く乗り越えていこうとする。ドミニカ共和国出身の父、日本人の母という二つの国にルーツを持つ豊原だが、自身も“壁”を感じた経験があると打ち明ける。
「私が育った場所では、その当時はまだハーフという存在が珍しかったんですね。子どもの頃は通りすがりにいろいろと言われることもあって」と切り出し、「『普通になりたい』『周りのみんなと同じになりたい』と思って、癖っ毛の髪を一生懸命に伸ばそうとしたりしていました。目立たないように、隠れるようにして生きていたようなところがあります」と照れ笑いで告白。「でも海外に留学したり、東京に上京してみると、本当にいろいろな人がいる。すると『私ってなんだろう』って思ったんです。20歳の頃には『私は私だ』と思えるようになって、自分を解放することができました」とほほ笑み、「以前の私だったら『アリエルをやりたい』と飛び込んでいくなんて、考えられないこと。自分でもびっくりしています(笑)。考えてみると、周囲からのレッテルもありますが、『私はこう見られている』『私ってこうだから』など自分で自分に対してレッテルを貼ってしまっていたんだなと思います」と自分を縛っていたのは、自分でもあったという。
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アフリカ系アメリカ人のハリー・ベイリーがアリエル役に抜てきされたことでも話題になっている本作だが、「アニメーションの『リトル・マーメイド』に触れてきた方々から、いろいろな意見が上がることもとてもよく分かるんです。その気持ちも決して間違っていないし、とても大切なもの」と豊原。「でも本作を観ると、ハリーさんがものすごくチャーミングでかわいらしい。それがすべてだなと感じました。素晴らしいものは届いていくはずだし、愛されるものになると信じています」と真っすぐな瞳を見せる。
「私だけではなく、たとえば『もうこんな年齢だから』など誰もが自分に対して貼ってしまっているレッテルってあると思うんです。そういったものから解き放たれて、『自分の心のままに飛び出してほしい』『みんなに届け!』という思いを込めて収録していました」とアフレコを回想した豊原だが、インタビュー時もこちらの質問に熱心に耳を傾け、終始心のこもった言葉を口にしていた。歌声そのものの美しさはもちろんのこと、その思いやりのある人柄と本作に込めた願いが見事に反映されているからこそ、本作のアリエルは観客を惹きつける魅力にあふれている。ぜひ日本語版にも注目してほしい。(取材・文:成田おり枝 写真:松林満美)
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映画『リトル・マーメイド』は公開中。