役所広司「物語というのは日本映画史の中でほぼ出尽くした」 『VIVANT』『PERFECT DAYS』経た今“惹かれる企画”とは
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役所:最初に台本を読むときは、まずは映画を見るように全体をつなげて読むようにしています。何回か読んでいるうちに「これはこういうシーンかな」と一つずつばらして考えるようになり、そのアイデアを持って現場に行くわけですが、そこに固執しないようにしています。実際に現場に行って共演者の方と会ったり、自分が演じる人が住んでいる場所に身を置いたり、美術部さんが用意してくれた持ち物に触れることで、自宅で机に向かって考えていたものとは違ったものが出てきます。僕はそうした現場でひらめいたことが一番正しいと思っているので、元々やろうとしていたことにはこだわっていません。
――その瞬間に反応できるように、感性の余白を作っておくのですね。
役所:住んでいる家のセットや共演者さんとのやり取りが自分が想像していたものと違っているなんてざらですし、それはもう変えられないものです。だったらそのとき・その場で感じたことが正解だろうと思っています。
――『PERFECT DAYS』だと、平山の家の照明が植物のためにブラックライトだったり、壁にカセットテープがきれいに並べられていたりといったものは、実際にその場に行かないと分からないことですもんね。
役所:僕自身忘れていたことですが、撮影前にヴェンダース監督と2人で「平山の家に何が必要か整理しよう」と話して、「あれもいらない、これもいらない」と省いていった結果、あれくらい簡素な住まいになりました。最初はデスクなどがあったような気がします。
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――偶然の出会いもあるかとは思いますが、『VIVANT』や『PERFECT DAYS』など、国際的かつ斬新な企画が続いている印象です。役所さんご自身は今、どういった作品に惹かれますか?
役所:基本的には、見たことのない映画に出たいです。それこそ『PERFECT DAYS』は「これで映画になるのか」と思えるような企画でした。物語というのは、日本映画史の中でほぼ出尽くしたと僕は考えています。キャメラや録音技術の進化などで新しくはなっているでしょうが、物語自体はそうではない。出尽くした中でどうやって新しいもの・見たことのないものに見せるかは、作り手の感性が一番大事なんでしょうね。だからこそ、目指すのは台本や原作を読んで「こんなものが映画になったら見てみたいな」と思えるような作品に出続けることです。
(取材・文:SYO 写真:小川遼)
映画『PERFECT DAYS』は全国公開中。