松下由樹、嫌われ役から『ナースのお仕事』まで幅広いキャリア 蟹江敬三の言葉が自信に
松下は1983年に『アイコ十六歳』で映画デビューし、40年以上にわたって第一線で活躍してきた。「若い頃は、嫌われ役が続くこともあった」と吐露するが、とりわけ『想い出にかわるまで』で今井美樹演じる姉の婚約者を強引に奪おうとする久美子役は、強烈なインパクトを残した。松下は「取材を受けたり、街で出会う方からも、私に対しての“嫌いオーラ”が伝わってくるんですよ」と笑いながら、「当時は私も年齢が若かったので辛いなと思うこともありましたが、同時に今井美樹さんや石田純一さんも辛かったと思います。それだけ視聴者の皆さんがドラマをしっかりと観てくださったということでもあるので、今ではありがたく、役者冥利に尽きることだなと感じています」と嫌われ役も、今では財産の一つになっていると話す。
そんな中、転機となったのが観月ありさと抜群のコンビネーションを見せたドラマ『ナースのお仕事』で、「そこで一気に、皆さんが親近感の湧くような先輩の役をやらせていただいた。イメージの転換があった」という。さらに2001年に始まったバラエティ番組『ココリコミラクルタイプ』も大きな転機になったと続け、「バラエティ番組におけるコントという枠でありつつ、現場ではドラマと同じようにお芝居をやっていました。短い時間でいろいろな人を演じさせていただき、とても勉強になりましたね。あの番組のコントでは、カットをかけずに最後まで演じ切るんですね。NGが出たら、もう一度最初からやり直し。まるで舞台のようで、集中力や瞬発力を培うことができました」と役者として鍛えられたとも。
俳優業の醍醐味は「この職業に就いていなければ、触れることもなかったような世界を知ることができる。多くの方と出会うこともできる」という松下だが、刑事ドラマ『おとり捜査官・北見志穂』シリーズで16年も相棒役として共演した俳優で、2014年3月に亡くなった蟹江敬三さんは、「背中でたくさんのことを教えてくださった方」だという。
「蟹江さんは本当に頼もしくて、私はいつも甘えていたなと思います。芝居へと切り替わる瞬間が、本当にステキで。背中からも、ふっと空気が変わるのがわかるんです。“背中で演じる”ということを目の当たりにしながら、『ああなりたい』と常々感じていました。普段は照れ屋さんで多くを語るような方ではないので、私はそんな蟹江さんをツンツンと突っついてからかったりして」と楽しそうに目尻を下げ、「私が演じる北見は、蟹江さんがいたからこそ存在することができた。長くバディを演じさせていただけて、本当に感謝しています。私が『ココリコミラクルタイプ』をやることになった時も、蟹江さんが最初に『面白いじゃないか』と褒めてくださったんです。新しいことを始めて不安だったものが、蟹江さんの一言で自信につながりました」とすばらしい出会いに思いを馳せていた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
映画『お終活 再春!人生ラプソディ』は、5月31日より全国公開。