佐倉綾音が語る“信頼”と声の力――誰かを救う、その一言の先にあるもの
――目には見えない「信頼の手応え」を感じるのはどんな瞬間ですか?
佐倉:お仕事においては「あなたの作るものが好きです」と伝えてもらえたとき、素直に嬉しいなと思います。褒められた内容そのものももちろん嬉しいんですけど、「なぜ今、この人はその言葉をかけてくれたんだろう?」という背景にすごく興味があって。人は何かしらの意図を持って言葉を発することが多いと思うので、その理由を少し掘ってみたくなるんです。
たとえば、「今ちょっと機嫌よくなってほしいからかな」とか、「私のリアクションを見たいのかも」とか。あるいは、「ただただ、自分が思ったことをそのまま口にしてしまうタイプの人なんだな」とか。そういう“言葉の奥にある感情”を読み取ろうとしていると、信頼の手応えって、ひとつじゃないなと感じます。
どんな理由であれ、伝えようとしてくれたこと自体が嬉しくて。その瞬間が訪れた時点で、もうすでにひとつの“信頼のかたち”がそこにあるんだと感じます。
――また、「この人は心から信頼できる」と感じるのは、どんな相手ですか?
佐倉:まず、私のことを信頼してくれようとする人ですね。感情って、ある意味“等価交換”だと思っていて。私は自分のことを全部さらけ出すのがあまり得意ではなくて、自分から先に自己開示するのがとても苦手で、どちらかというと、相手がどれくらい自分のことを話してくれるかを見て、それに応じてこちらも少しずつ見せていく、というタイプなんです。
そのせいもあってか、人間不信とまではいかなくても、どこか慎重に距離を測ってしまうところがあるかもしれません。だから、同じような感覚を持っている人と出会うと自然と惹かれるし、気が合うなと思うことが多いですね。
そういう相手と、少しずつ「どれくらい見せてくれますか?」「じゃあ私もこれくらい」って、お互いじりじりと心の距離を詰めていく。そのプロセス自体が、私はけっこう好きなんです。時間はかかるけれど、そうやって築かれた関係のほうが、結果的に深くて強い信頼で結ばれる気がします。
あとは、やはり家族ですね。血のつながりって、理屈では説明できないけれど、私にとってはすごく大きな信頼の土台になっていて、家族には無条件で心を開けるし、自分のことを全部話してしまえる。そういう相手がいることは、自分の中でもごく自然で当たり前のようでいて、実はとても大切なことなんだなと感じています。
――以前お話を伺った際、そんなご家族が佐倉さんにとっての“ヒーロー”だと仰っていましたよね。一方で、ご自身が声優として活動される中で「誰かにとってのヒーロー」になれたと感じる瞬間はありますか?
佐倉:「あの作品に救われました」とか、「このキャラクターに出会えてよかった」といった言葉をかけていただいたときですね。そういう言葉を聞くと、本当に嬉しくなります。
私たち声優は、基本的にマイクの前でお芝居をしていて、その視線の先って、キャラクターが見ている景色なんですよね。だから、実はその先にいる“お客さん”のことを強く意識しながら演じているわけではないんです。演じる瞬間は、あくまで役と、その役が生きる世界に向き合っている感覚に近くて。
けれど、その時間を真剣に積み重ねた結果として、誰かの心に届いていたり、誰かの人生のどこかで支えになっていたりする。それを知った瞬間は、「ああ、エンタメの持つ力ってこういうことなんだな」と、しみじみ感じます。
私は、ただ自己満足で終わる表現ではなくて、誰かの心を少しでも動かせるような仕事がしたいと思っています。だからこそ、「あなたに救われました」と言っていただけることは、声優として活動していて一番ありがたく、幸せだと感じる瞬間です。
――作り手から受け手に届く瞬間にこそ、喜びがあるのですね。
佐倉:そうですね。特に、大勢の人が関わって、たくさんのお金も動くようなタイトルになると、制作側の人数がどんどん増えて、現場の方向性もばらついていくことがあるんです。そんな中にいると、「自分がやっていることは本当に合っているんだろうか」とか、「誰かの足を引っ張ってないかな」とか、不安になることもあって。
「ちゃんといいものが作れているのかな」と思い悩むこともあるんですけど、そうした中で、作品を受け取ってくれた方のたった一言で、ふっと救われることがあるんですよね。「ああ、報われたな」と思える瞬間というか。
その言葉を聞いたことで、制作に関わる人たちが不思議と同じ方向を向けるようになったりもして。そう思うと、やっぱり私たちって、どこかで“救い合っている”んだなと感じます。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
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