主演作が続く松本若菜、「ここ数年」で起きた心境の変化 初吹替挑戦は女優としても財産に
2024年7月期のTBS系火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』、同10月期のフジテレビ系木10ドラマ『わたしの宝物』、今年4月期のフジテレビ系水10ドラマ『Dr.アシュラ』と、近年主演を務める機会が増え、彼女が見る景色は大きく変わった。まさに飛躍の時を迎えている印象を受ける。
「主演をさせていただいて、自分が今までやってきた現場での居方みたいなものが本当に変わりました。やはり見られているというか、自分が周りを見なきゃいけない、そういう視野もすごく広がりました。座長が暗いと、(現場が)暗くなっちゃうんじゃないかって思いますし、暗い作品でも常に笑っていたいという思いは強かったです」。
かつては「周りが気になっていた」と正直に打ち明けた松本。オーディションに落ちては、受かった人が出演した作品を映画館に観に行って「悔しい!」と他人と自分を比べる日々。しかし、年齢と経験を重ねる中で、その尖っていた心は少しずつ丸みを帯びていった。
「年齢というのもすごく大きかったと思います。いい意味で諦めがつくというか、変なプライドとかが削ぎ落とされていった部分はあると思うんです。今までちょっと尖っていた部分が、1枚ずつ剥がされていくと、純粋に『この仕事が楽しい』という気持ちしか残らなかったんです」。
その境地に至ったのは「ここ数年だと思う」と彼女はほほえむ。役のことで悩めること自体が、何よりの幸せ。その苦しみの先にあるものこそ、自分だけの表現だと信じている。
「悩んで苦しんで生まれた先は、自分にしか何かできないものだったんじゃないかって、そう思いたいんです」。
その目は、常に未来を見据えている。邦画が大好きだった少女が、いつしかスクリーンの中で生きることを夢見た。その原体験は、山崎まさよし主演の『月とキャベツ』(篠原哲雄監督)。
「『月とキャベツ』を観た時に、『ああ、こういう世界観の中に、自分がいたらどうなんだろう』みたいなのは、漠然と感じたのを覚えています」。
共に作品を作りたい監督や俳優の名前を「言葉に出す」ことを大切にしている。それは、自らを奮い立たせ、不思議な縁を引き寄せる「言霊」の力を信じているからだ。樹木希林さんとの共演(『駆込み女と駆出し男』)も、そうして実現した夢の一つだった。
「ご一緒したいと思っている方々はたくさんいます。白石(和彌)監督ともご一緒したいし、大根(仁)監督や石川(慶)監督とも久しぶりにまた作品を共にしたいです。挙げたらきりがないぐらい……一つ一つ叶えていけたらいいなと思っています」。
長い助走期間を経て、今、大きな花を咲かせた松本。しかし彼女は、決して過去を憂いもせず、未来に驕りもしない。「この仕事が楽しい」という純粋な気持ちだけを胸に、これからも唯一無二の存在として映像界に輝き続けるだろう。(取材・文:磯部正和 写真:松林満美)
映画『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は、8月8日より全国公開。