大倉孝二、俳優デビュー30年 芝居は「あまり好きじゃない」、けれど間違いなく真剣に取り組んでいる
――ところで、俳優さんは芝居で“虚”の世界に入っていきますが、ドン・キホーテは「現実と妄想の区別がつかなくなり荒唐無稽な行動を繰り広げる男」です。どんな存在として映りますか?
大倉:そんな人がいたらイヤですよ(苦笑)。
――俳優さんも、役に没頭しているときは、“虚”と“実”が交ざってしまうような瞬間があるのでは?
大倉:自分の場合は、そういうのはあまりないです。皆無ではないですけど。やっぱり暗い役をやっていれば暗くなるときもありますし、影響を受けることもあります。でも私生活がままならなくなるみたいなことは、私の場合はないです。
――ドン・キホーテのような男を「面白い、興味深い」とは。
大倉:若い時であれば、そうしたありえない人に興味を覚えたりしたこともあるでしょうけど、年齢を重ねてくると、“妄想”ではなく“現実”を強く感じてしまうので、そういう対象には怖さが勝ると思います。
――ドン・キホーテは、これまで見えていた世界が“妄想”であると悟ったことで情熱を失い、生きる力まで失われていきます。情熱を失うと生命力まで奪われるというのは理解できますか?
大倉:理解できないです。私、そんなに情熱を強く持って生きていないので。
――大倉さんは、お芝居に対するモチベーションに関する話題で、「辞めようと思った瞬間が何度もある」といったコメントをこれまでにも度々されています。しかし現実として、30年続けるというのはすごいことです。
大倉:そうですね。なんだかんだ、続けられています。
――“好き”を表に出さないようにしているのでは。
大倉:表に出さないようになんてしてないです。むしろあまり好きじゃないことを表に出さないようにしています。でもじゃあ、果たして適当にやっているのかというと、それは全くありません。舞台だけでなく、映像にしても、それが情熱なのかなんなのかは、私には分かりませんけれど、間違いなく真剣に取り組んでいるとは思います。そうでなければ続きません。
――30年ですからね。
大倉:別に好きでやっているわけではないです。でも“自分の仕事を一生懸命やる”ことを情熱と呼べるというのなら、それは自分にもあると言えるのかもしれません。
(取材・文:望月ふみ 写真:高野広美)
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』は9月14日~10月4日 KAAT神奈川芸術劇場<ホール>、10月12・13日富山・オーバード・ホール 大ホール、10月25・26日福岡・J;COM北九州芸術劇場 中劇場、11月1日~3日大阪・SkyシアターMBSで上演。