作曲家・林ゆうき、ドラマ&アニメ“劇伴”の名手が曲作りで大切にする新体操選手の頃の感覚

――普段のインプットや、アイデアの出し方はありますか。空港やホテルなど、いろんな場所で曲作りを進められたこともあるとか。
林:映画やドラマを見ていても、職業病で「どういう楽器を使っているな」「こういうアプローチをしているんだな」と見てしまいますね。この作品の音楽は何が一番合うんだろう、どういう楽器なら世界観が出せるかなというのは、鍵盤の前で考えるより、散歩していたり、別の作業をしながら考えているときのほうが、アイデアが出るんです。なので、取りこぼさないように常にメモをしていますね。
締め切りの都合で、ホテルなどの旅先でやっていたということもありますけど、いつもと違う環境が新鮮で良かったりもします。細かい作業や、レコーディングスタジオじゃないとできないことのほうが多いですが、スケッチや走り出しのアイデアは、むしろどこでもできるんですよね。
――スランプに陥ったときは、どう立て直しますか。
林:これをスランプと言っていいのか分からないんですが……曲ができないという作曲家の方は、多分いないと思うんです。曲は、無尽蔵にポコポコと出てくるので。悩むのは、それがこの作品の温度感に合っているか、もっとテンポが速いほうがいいんじゃないか、もっとロックに寄せたほうがいいんじゃないかといったこと。生み出すことより、選んで合わせるほうが大変、という感覚のほうが近いですね。
――アイデアはどんどん生まれてくるからこそ、選ぶ苦労が多いんですね。そんな盛りだくさんの楽曲が楽しめる今回のセットリストと、聴きどころを教えてください。
林:前回の「劇伴食堂」以降に作った曲がいろいろあって、正直、選びきれないところもあるんですが(笑)。直近でやったお気に入りに加えて、過去作でも「これを機に知ってもらえたらいいな」と思っている、隠れたお気に入りの曲も入れています。
『メダリスト』の曲も入れてあるのですが、来年2月に劇場版が公開されます。ヒロアカやハイキュー!!と同じく、自分の代表作だと思っているので、ぜひ劇場版に足を運んでもらえたらうれしいです。特にヒロアカは、オフィシャルコンサートでは選ばれなかった曲をあえて選んでおり、原作ファンの方が見たかったシーンを生演奏でお届けします。実際の放送では違う使われ方をした楽曲を、完成版スタイルで聴いていただけるのもこの食堂ならではだと思います。
また劇場版『ストロベリーナイト』のメインテーマのリミックスは、今回が初披露です。終始雨が降り続くような作品なので、頭からずっと鳴っているピアノのアルペジオで雨を表現しています。そのほか、『ONE PIECE FILM GOLD』で、麦わらの一味が逆転していくシーンの曲も演奏します。2月からNetflixで新しい『THE ONE PIECE』が始まり、こちらでも音楽を担当していますが、僕がやりたい表現がこの頃からすでに入っています。それも感じてもらいつつ、新シリーズを楽しんでもらえたらうれしいですね。
――最後に、今後のビジョンと、メッセージをお願いします。
林:劇伴というジャンルが全然知られていないな、という想いがこのコンサートを始めたきっかけでもあります。「どういう音楽が好き?」と聞かれて、ポップスやロックやジャズなら通じるのに、「劇伴が好き」と言っても、あまり分かってもらえない。もっと声を大にして言えるくらい、普通に楽しめるジャンルなんだと知ってもらうには、劇伴を身近に体験できる機会が増えることが一番です。アニメは海外でもたくさん楽しんでいただいているので、日本だけじゃなくて、いつか海外でも「劇伴食堂」の公演ができたらいいですね。ぜひ楽しみにしていただきたいです。
(取材・文:宮崎新之 写真:ヒダキトモコ)
『林ゆうき~劇伴食堂 肆』は、12月27日東京・東京国際フォーラム ホールCにて開催。
