身に覚えのある痛みを思い起こさせ、静かに問いを発するハラスメント映画『アシスタント』

仕事はつらいことがあって当たり前。しかし、職場で日々直面する理不尽な出来事の中で、どこまでが我慢すべき範囲で、どこからがそうでないのか。映画業界の新人アシスタントの一日を描く映画『アシスタント』(公開中)は、改めてそれを考えさせられる1本だ。
【写真】憧れの映画業界で働き始めたジェーンを追い詰める闇
主人公は、名門大学を卒業したばかりの女性ジェーン(ジュリア・ガーナー)。映画プロデューサーという夢を抱いて激しい競争を勝ち抜き、有名エンターテインメント企業に見事就職した彼女は、業界の大物である会長のもと、ジュニア・アシスタントとして働き始めた。
しかしその生活は、華やかさとは無縁の殺風景なオフィスで、早朝から深夜まで平凡な事務作業に追われ、常態化しているハラスメントに消耗させられる日々。それでもジェーンは、自分が即座に交換可能な下働きでしかないということも、将来大きなチャンスを掴むためには、会社にしがみついてキャリアを積むしかないこともわかっていた。そんなある日、会長の許されない行為を知った彼女は、この問題に立ち上がることを決意するが…。
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監督・脚本・製作・共同編集は、『ジョンベネ殺害事件の謎』(2017)で知られるドキュメンタリー映画作家のキティ・グリーン。グリーン監督が、数百にも及ぶ労働者にリサーチとインタビューを行い、それによって得た膨大な知見、とりわけ女性の痛みや混乱の経験から物語を形成した。ヒロインのジェーンという名前は、英語で匿名の女性を指す “Jane Doe(ジェーン・ドウ)” が由来だ。周囲から「いくらでも替えが効く透明な存在」として扱われながら雑務に追われる彼女のオフィスライフは、ヒエラルキーの末端で働く人間の悲哀に満ちている。ジェーンが両親と電話をする際、実情を明かさず充実した生活を送っているかのようにとりつくろって話す姿には、とても切ない気持ちにさせられた。