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〈高橋ヨシキの最狂映画列伝〉Vol.1『ザ・フライ』が描いた恐怖の本質――男性性が怪物と化すとき

映画

■『ザ・フライ』のヒトからハエへの変貌が示すもの

 1958年のホラー映画『ハエ男の恐怖』をデヴィッド・クローネンバーグ監督がリメイクした『ザ・フライ』は大ヒットした作品で、1986年度の全米興行収入ランキングでも23位につけている(23位は低いように感じられるかもしれないが、ホラー映画としては20位の『ポルターガイスト2』に次ぐ順位である)。

 『ザ・フライ』がHIVのメタファーとして機能している、ということは公開当時から指摘されているが、それについてここでは一旦措(お)いておく。一つにはそれが実際の疾病のイメージを怪物化することにつながりかねないのと(映画自体はそうならないよう注意深く作ってあると思うが)、その「分かりやすさ」が作品そのものへの接近を妨げるからである。

 『ザ・フライ』(1986)より 写真提供:AFLO
 クローネンバーグの多くの作品と同様、『ザ・フライ』はセックスにまつわる物語である。ハエと遺伝子レベルで結合したブランドル博士(ジェフ・ゴールドブラム)がそのことによってハイパー化する過程は『透明人間』(1933)を受け継ぐものであり、リビドーに突き動かされて徘徊(はいかい)する様子は『狼男』(1941)の再解釈とみることができる。「ブランドルフライ」は、オリジナル版の『ハエ男の恐怖』より以前の、ユニバーサルのクラシック・モンスターの継承者である(『ハエ男の恐怖』はむしろ続編の『ザ・フライ2/二世誕生』においてより強く意識されている――プレス機/エレベーターによる人体の破壊はその一例)。ブランドルフライへの移行は『ビデオドローム』(1982)の主人公の腹に生じたヴァギナ状の亀裂同様、主体のうちにありつつ他者性を主張する外性器への恐怖と憧憬が入り混じった感覚を呼び起こす。

 クローネンバーグはレトリックを「字義通り」に映像化することがままあるが(「頭が割れるように痛い」というレトリックが『スキャナーズ』の有名な頭部爆発場面を生んだ逸話はよく知られている)、それに倣(なら)うなら徐々にヒトとしての形態を失うブランドル博士は性欲に主体性を奪われた結果、文字通りの「セックス・モンスター」へと変貌していく、と見ることもできる。であればこそブランドルフライが白濁した消化液を吐き出して相手に攻撃を加えることの理由もはっきり見えてくる――その最初の兆しは酒場での腕相撲対決のときに既に描かれている(組み合った手指の間から同じような液体がしたたっているのに注目されたい)。

『ザ・フライ』(1986)デヴィッド・クローネンバーグ監督(一番左) 写真提供:AFLO

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■ブランドル博士は何を真に恐怖していたのか

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