「僕はカルマを信じています」 タイで起こる怪奇現象が恐すぎる 『女神の継承』監督が語る舞台裏
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韓国の田舎町を襲う連続変死事件とシャーマニズムの謎。鬼才ナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』(2016)は、予測不能な未体験の恐怖世界に切り込み、日本でも熱狂的な支持を集めた。そんな『哭声/コクソン』で縦横無尽に活躍する祈祷師のキャラを掘り下げる構想を出発点に、ナ・ホンジンが原案・プロデュースを手がけたのが本作『女神の継承』だ。タイの民間信仰を集める女神バヤン。その神通力を継承する女性祈祷師の一族に降りかかる恐怖の正体とは―? ナ・ホンジン初の海外合作プロジェクトへの期待はすさまじく、本作がプレミア上映を迎えた2021年の「プチョン国際ファンタスティック映画祭」では、わずか26秒でオンラインチケットが完売する異常事態に。常に最高を求める完璧主義者、ナ・ホンジンとのコラボに挑んだ、タイ屈指のホラー監督バンジョン・ピサンタナクーンに映画の舞台裏を聞いた。
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■「これは『哭声/コクソン』とは似て非なる映画です」
――本作は韓国映画『哭声/コクソン』の続編的企画ですが、完成した作品はちょっとテイストが違いますね。
バンジョン・ピサンタナクーン監督(以下ピサンタナクーン監督):確かに出発点は続編で、祈祷師こそ登場するものの、舞台をタイに移して製作を進めるうちに全く異なる肌触りの作品になりました。
――姉妹編と呼ぶのが一番近いでしょうか。『哭声/コクソン』の世界観を継承した点、あえて異なる新しいアプローチをした点を教えてください。
ピサンタナクーン監督:まず、モキュメンタリー仕立てにしたのが異なる点。祈祷師の継承や地方の迷信を主題に選び、タイ東北部の少数派であるキリスト教徒を取り上げたのも珍しい点です。ただ、最後までミステリアスに物語が展開し、観客に解釈を委ねる作風は、ナ・ホンジンが意図したことで、同じ世界観ですね。
映画『女神の継承』より (C)2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS ALL RIGHTS RESERVED.
――ナ・ホンジン監督は完璧主義者だと聞きますが、プレッシャーを感じた部分はありましたか。
ピサンタナクーン監督:正直ありました。彼は本当に真面目で真摯な人なので。ただ、コロナのせいでタイの撮影現場には来られなかった。これはラッキーだったかも(笑)。もちろん、細かな意見の相違はありましたが、ズームやメールで対話を重ね、最終的な決定権は僕に委ねてくれた。双方が歩み寄って信頼を深めたんです。
■「自分の行いが自分に返って来る。僕はカルマを信じています」
――『哭声/コクソン』では信仰への疑問が「悪魔」の姿となって登場しましたが、今回は同じ恐怖でも「因果応報」や「カルマ」に寄せられていて、似た宗教的風土を持つ日本人にはしっくりきました。
ピサンタナクーン監督:タイは仏教の他にヒンドゥー教やキリスト教、精霊信仰などが混在している国です。僕自身は仏教、特にカルマの存在を信じています。自分がした行為が自分に返って来る。心の苦しみもカルマが原因で、この映画で祈祷師に起きたことにはリアリティを感じます。
――映画の舞台である緑豊かなイサーン地方も神秘的で、背景として説得力がありました。
ピサンタナクーン監督:ロケハンが本当に大変で。車で各地の祈祷師に会いに行く道中も、画面映えする風景を探したりして。女神バヤンは架空の神様ですが、その姿は実際に祈祷師が所有するさまざまな神様の像を合体させたもの。地元の方にエキストラで参加してもらったのですが、撮影用のバヤン像を終始、拝んでいたのが印象的でした。美術部が作ったニセモノなのに。信心深いんですよね。
映画『女神の継承』より (C)2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS ALL RIGHTS RESERVED.
――そんな敬虔な土地でこの映画を撮影して大丈夫だったんですか?
ピサンタナクーン監督:過激なシーンは屋内で撮影したので問題ありません!(笑)