高橋一生×井浦新の濃密『ジョジョ』対談 「荒木先生は変わることを恐れない」
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井浦:あまり構えてはいませんでした。というのも、構えていなくてもきっと出てしまうだろうなと思っていたからです。好きなものに関わって向き合う以上、どうしたって“好き”のフィルターはかかってしまいますよね。だからこそとらわれないようにとは考えていました。1つの映像作品として、自分ができることをとにかく全部捧げていく。その捧げる度合いが自然とどんどん強くなってきてしまうでしょうから、自分から意識的に「出そう」とは考えませんでした。
(左から)岸辺露伴(高橋一生)、田宮(井浦新) 映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』場面写真 (C)2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
先ほどおっしゃったように、時間をかけて良い発酵状態になっている組の中に自分という新しい素材がポンと入れられた時にどう浸食されていくか、一体感を作れるかが一番大事でした。組の温度感をしっかり捉えた上で、自分の温度感を定めていく感覚でしたね。ヴェネツィアで1ヵ月間合宿形式の撮影ということもあって、まずは組の温度感を知りたいという状態でした。
――撮影期間に、思ったよりも愛や熱が出てしまった瞬間はございましたか?
井浦:ありがたいことにほぼ順撮り(脚本の順番通り、ひいては時系列順に撮影すること)でできたこともあり、序盤は仮面をかぶった状態で撮影をしていました。これがとても良い効果を生んで、仮面を外した時の表情もまた新たな仮面をかぶっているというような感覚になれたのです。順撮りでなかったらまた違った筋肉の動かし方になっていたでしょう。仮面をつけながら岸辺露伴と対峙(たいじ)して運命が重なっていく経験をしたことで、スムーズに田宮の内側も外側も出来上がっていく感覚がありました。そうした意味では、瞬間的にほとばしったというよりも作品の一部として存在できたような気がします。
高橋:芝居においては思い切る時に助走が必要なものですが、いきなり大ジャンプできるのが新さんだと感じました。もちろんしっかりと準備をされていらっしゃるかとは思いますが、根底に荒木飛呂彦先生やこのチームへのリスペクトがあった上で垣根や壁を乗り越えてきてくれました。
井浦:でもそれは、このチームに受け皿があったからこそです。一生くんや渡辺一貴監督、プロデューサー陣が時間をかけて作り上げた組に新たに加わって感じたのは、受け入れてくださる温かさでした。もし寂しさを感じてしまったら、うまくいかなかったかもしれません。自分だけでなく戸次重幸くんや大東駿介さん、玉城ティナさんもきっとそうで、同じチームになれる喜びを感じていました。
(左から)井浦新、高橋一生
――冒頭で「荒木先生は変わることを恐れない」というお話がありましたが、おふたりはいかがでしょうか。お芝居のお仕事を続けていく中で意識的に変えてきた部分や、あるいは変えないように保っている部分はございますか?
高橋:意識の力はとても大きい気がしています。テクニカルな部分の準備はもちろんしていきますが、自分が思っていることは大体表に出てしまうと感じていて。だからこそ「これを出していこう」と決めたのに出せなかった時は恥ずかしくなってしまいます。それもあって、僕は監督や演出家の方と事前に「こうしようと思っています」という話をほとんどしません。いくら言葉で言ってもその人の目にどう映っているか分からない以上、まず芝居で魅せるのが俳優だと思うからです。ただ同時に、自分の中にある微妙な意識の違いをすくい取ってくれるかどうかに重きを置いてもいます。そういった意味では『懺悔室』のチームにはヴェネツィアだ! と浮足立っている人が一人もおらず、全員が真摯(しんし)に誠実に取り組んでいました。その意識の高さは作品に宿っているのではないかと思います。
井浦:非常に共感します。作品や役や監督の求めるものによっては、意図的に芝居として大胆に出して変えていかないといけない場合もあります。ただ、意識が追い付いていないのにあからさまにすると「芝居しています」感が強まってしまいます。それくらい、生理的なものってどうしても出てしまうんですよね。例えば一生くんは普段からカメラを使い慣れているからカメラを操作する芝居においても所作がとても美しいのですが、“意識の力”も同じように自然と常日頃の蓄積が出るものだと感じます。
岸辺露伴(高橋一生) 映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』場面写真 (C)2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
だからこそ、自分が好きなものとのふれあいや生活は大事にしています。生活と表現は密接なもので、自分が好きなものは変わらないし時間をかけて出来上がっているから、無意識下でもきっとにじみ出てしまう。そのため、基盤である生活が疎かにならないようには気を配っています。
自分たちは芝居で嘘を表現していますが、嘘くさくないと思ってもらうために、その矛盾を埋めていかないといけません。そういった中で、自分自身に好きなものがあると地に足をつけていられる気がします。僕たちは嘘を演じるけれど、その内側には嘘がない状態にすることで、深呼吸できるように思うのです。お芝居のテクニカルな部分や作品にどれだけ生きているかは分かりませんが、僕は自分の心を健康に保つことが重要だと信じています。
(取材・文:SYO 写真:上野留加)
映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』は公開中。