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「見る人が変われば、全て変わってしまう」綾野剛、“真実の多面性”に挑んだ最新作で魅せた新境地

映画

■役作りではなく「作品作り」という意識

 これまで『コウノドリ』(TBS系)で愛情深い産婦人科医を、『フランケンシュタインの恋』(日本テレビ系)で心優しい怪物を演じるかたわら、『闇金ウシジマくん』シーズン2(MBS)では冷酷な情報屋・戌亥を、『MIU404』(TBS系)では身体能力に優れた心優しく危うい“野生のバカ”刑事を演じるなど、実に幅広い役柄を手がけてきた綾野。そんな多彩なキャリアを持つ彼の“集大成”とも言えるのが、角度を変えると全く別人のように見える薮下誠一へのアプローチである。なぜなら本作では、冒頭から同じ場面が、告発者・律子の視点からと、薮下の視点からそれぞれ描かれるのだが、2人が語る「薮下」が全く別人の様相を呈しているためだ。

映画『でっちあげ 〜殺人教師と呼ばれた男』場面写真(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会
 今回の綾野の芝居における最も特徴的なポイントは「情報量」への意識だ。「薮下誠一という人を生きるにはどう見せたいかではなく、どう見られるかを大切にしていました。細かい情報を削いでいくことは可能ですが、あえて情報過多にすることで誤解をたくさん散りばめるようにしました。見る人が変われば、角度も切り取り方も変わる。同じ人の同じ行動でも伝え方や受け取り方、状況や感覚次第で印象が全て変わってしまいます」。冒頭で登場するのは、律子の家に家庭訪問で訪れた薮下。服も靴下もびしょ濡れで、何度も舌打ちをする、失礼で不穏な雰囲気を漂わせる人物だ。しかし、その同じ場面を薮下の証言からたどってみると、びしょ濡れで現れた理由も、「舌打ち」の意味合いも変わってきて、弱気でおどおどした人物像が浮かび上がる。2人の視点から見た景色の違いに気づいた瞬間、観ている者はおそらく鳥肌が立つだろう。しかし、これはまだ序盤に過ぎない。


 この作品で綾野が強調するのが「役作りではなく、作品作り」という考え方だ。「俳優はあくまで作品を作っていく中の一部署であり、“作品作り”の一員だと思っています。今回は同じ場面を作る上でも、俳優の芝居だけでなく、座る位置や照明の組み方、カメラのアングル、切り取りや切り抜き方などの違いで、景色や印象を表現しています。それぞれがプロの仕事を持ち寄る総合的な作品作りです」。

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■“憑依”=良い芝居? 綾野剛の芝居観とは

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