筒井真理子、生きづらさを抱える主人公の「人を信じる力」に共鳴 【主演映画『もういちどみつめる』インタビュー】

社会の変化が速すぎて、人々の心が追いつかない時代。『もういちどみつめる』は、そんな不器用な人々が、言葉を交わしながらゆっくりと世界を取り戻していく物語でもある。
筒井は「社会に馴染めるかどうかは、ほんの紙一重」だと語る。
「“健常者”と“障害者”というのも程度の問題で、社会で生活できるかどうかはすごく曖昧だと思うんです。出会う人によっては何の問題もなく社会に溶け込めたかもしれないし、逆に出会いによって社会に出ることができなくなってしまう人もいる。だからこそちゃんと人の言葉を聞いてくれる人が大事だと思います」。
この“耳を傾ける力”こそ、典子がユウキに対して持っていたものだった。
彼女はユウキを裁くことなく、ただ話を聞く。何かを教えるでもなく、ただそばにいる。
作品の背景には、2022年の少年法改正への疑問がある。18歳、19歳が「もう大人」として裁かれるようになった社会に対し、監督は「人がやり直すことの難しさ」を問うた。筒井もその思いに深く共感した。
「今は、なかなかやり直せない世の中じゃないですか。18歳で裁かれて、社会からはじかれるのは切ないと思います。もちろん規制は必要ですが、ちょっとした出来心でしてしまった行為でも一生やり直せないのだとしたら、私はもう少し寛容な社会がいいかなと思います」。
実は筒井はもともとカウンセラーを志していた時期があったと言う。心理学を学び、人の心の動きを丁寧に観察してきた経験が、俳優という仕事に自然とつながっている。
「心理学が好きで、想像できない役をやる時には先生に話を聞いたり、セッションを受けたりしてきました。カウンセラーは人を扱う仕事で、役者も人を扱う仕事。心理学を学ぶことはお芝居でもとても役に立っています。カウンセラーは言葉で導くけれど、役者はお芝居・生きる姿で導くことができる。繊細で、ちょっと似た仕事なのかなと思います」。

一見、静かで繊細な印象の筒井だが、内には確かな強さがある。
『淵に立つ』『よこがお』『波紋』など、痛みを抱えた役を数多く演じてきたが、その苦しさを作品の外まで引きずることはないと言う。
「私、実は弱いんですよ(笑)。ノミの心臓だし。本当にちっちゃいの(笑)。でも、すごく痛んだ役をやって、どんなに辛くても、自分は健康なところに戻ってこられる自信があるんです。カットがかかって1分くらいは泣いていても、“お疲れ様”と言う時にはもう健康になっている」。
それは、長年役と真摯に向き合ってきたからこそ身についた「戻る力」なのだろうか。傷を抱えた人物を演じるたびに、彼女は“人間を信じること”を確かめてきた。
「私も人間を信じているし、そういうたくましさはあると思います」。

