平凡な主婦が“麻薬所持”で逮捕 衝撃の実話を描いた女性監督「脅迫もあった」
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「チョン・ドヨンさんは正確に演技をしてくれる女優さんなんです」とパン監督は彼女を評すると「カンヌ国際映画祭で主演女優賞(映画『シークレット・サンシャイン』)を受賞したあと、しばらく彼女にはブランクがあったので、良い意味でこの作品に対する欲があったんです。だから大切な感情を表現するシーンでは、お互いじっくり話し合いました。彼女は愛らしく、鋭く、ハリネズミのような女優。頑固さと柔軟性を持っています。彼女は、私が想像していた以上のいい演技を見せてくれました」と賛辞を贈った。
パン監督は、女優としてのキャリアも豊富だ。その意味で、監督としての演出方法は“役者優先主義”だと言う。「私も女優をやっているので、役者の苦労も分かっているつもりです。だから基本的には、役者さんとたくさん話をしますが、演技は任せるタイプです。例えば、役者さんが『こう演じてみたい』というとカメラをそれに合わせたりします。私の究極の理想は、ディレクションを受けている俳優さんが、ディレクションされた感覚にならないような演出なんです」。
それでもラストの法廷のシーンは16テイクを重ねた。「あのシーンは、私とチョン・ドヨンさんの表現したいことが違っていたんです。だから何度も撮り直して、言葉のニュアンスやディテイルにもこだわり、一緒に作り上げたシーンです」とパン監督は振り返る。確かに、ジョンヨンが切実なる想いを心の底から絞り出すシーンは圧巻だ。「この題材を映画化する際、事件から7年たっているという事実がありました。ミジョンさんの娘さんが、かなり大きくなっていたんです。この映画が世に出たため、娘さんが『お母さんは刑務所に行っていたの?』と聞いたらしいんです。その話を聞いて、この映画を作ってしまって申し訳ないなと思いました」。それでもこの映画が世に出た意義は大いにある。そんなことを思わせてくれる力強い作品だ。(取材・文・写真:才谷りょう)
映画『マルティニークからの祈り』は8月29日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。