松山ケンイチ、肉体改造し「人生を捨てる覚悟で臨んだ」 名棋士役へ込めた思い
だが、いくら感銘を受けたとはいえ、同時代を生きた実在の人物は、演じる上でやりにくさはないのだろうか。「架空の人物は情報が少ないので、イメージしたり、いろいろなところから材料を引っ張ってきたりしなければならないのですが、実在した人は映像も写真も残っていますし、一緒の時間を過ごして来た人たちの話も聞ける。そういった部分では手掛かりがたくさんある。ただ、“村山聖”という人物により近づくために自分で作り上げなければならない部分もあるので、そこは確かに大変な作業ではありますね」と吐露。
例えば、肉体改造もその1つ。村山聖は、細身の松山とは真逆の体型だったが、驚異的な体重増量によってその距離を縮めていくと、外見だけでなく、心の面でも面白い変化が見られたと目を輝かせる。「太ってくると、歩くスピードも変わるし、体の使い方も変わる。すると、喋り方も変わるし、ひいては考えることも変わってくる。それは、自分が実際に村山さんと同じ体型に近づくことで、どうしても得たかったものだったので、この変化を実感できたことは本当に有意義だった」と振り返る。
肉体改造はもとより、プロ棋士としての振る舞いや将棋との向き合い方、駒をいじるちょっとした仕草など、日々訓練の積み重ねによって習得しなければならないものが多かったため、役づくりに膨大な時間を要したという松山。「これまで経験したことがないほど没頭しないと、辿り着けない役柄だったので、自分の人生を捨てるくらいの覚悟で臨んだ」と言葉にも力が入る。またある意味、ライバル・羽生とのラブストーリーでもあるという松山は、「同じ志、同じ熱を持った2人の棋士が、恋い焦がれ、そして愛し合っている…盤面という深い海を潜っている様をぜひ観てほしい」とも。体型はすっかり元に戻っていたが、その瞳の奥にはまだ、村山聖の魂が宿っているように見えた。(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『聖の青春』は11月19日より全国公開。