長澤まさみ「エンタメがないと人は生きていけない」 いま思う“楽しむこと”の大切さ
◆「理解しようとしなくてもいいのかな」気づかせてくれた子どもたち
断言する長澤の姿は、感動するほどの強さだった。しかし、今回、長澤自身の活動も大きな影響を受けたのは事実。3月上旬の時点で無観客での日本アカデミー賞授賞式を経験し、主演映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』は公開日が変更、5月に予定されていた一人舞台は中止となった。そしてようやく、新作『MOTHER マザー』が公開されることに。
実際に起きた17歳の少年による殺害事件がヒントとなった本作で、長澤が演じるのは、社会の底辺に生きるシングルマザーの秋子。自身の息子に対する理解しがたい言動の数々…共感するには困難なキャラクターである。
「私は役を演じるとき、自分とは違う人になる感覚なので、もともと共感するといったことはないんです。今回も、理解できるものを探していたわけではありません。とはいえ役を深めていく中で、どうしても腑(ふ)に落ちない部分があったりして、難しいなと感じることもありました。でも大森立嗣監督や共演者、特に子どもたちの存在が、『理解しようとしなくていいのかな』と気づかせてくれたんです」と振り返る。
劇中、自堕落な生活を送り、育児放棄といえる行動を取りつつ、息子・周平に異常なまでに執着する秋子が、周平を「舐(な)めるように育ててきた」と言い放つ場面がある。何ともインパクトのある一言だ。
「今回、母と息子の共依存が描かれますが、本人たちが無自覚なままにそうなっているのが問題なのかなと思います。それを象徴しているような一言だなと。秋子は、自分としては子育てに向き合っている自負がある。実際には何もしていなくて、一般的な家庭とは程遠いんですけど」。
◆常に成長した自分に「そうじゃなきゃ、先は見えなくなる」
長澤自身は母親から受けた影響を、「正義感が強くてマジメなところ」と挙げる。「周りにもマジメすぎると言われますね(笑)」。
女優業への意識にもその一端がのぞく。
「仕事に対して、自分が納得できる日が来るかどうかは分からないけれど、次の現場に行くときには、新しい自分や成長した自分になっていなければダメだと思っています。そうじゃなきゃ、先は見えなくなる。でも人は少なからず成長するものだし、そうであってほしいと、私は思っています」。
社会的なブームにまでなった映画『世界の中心で、愛をさけぶ』をはじめ、映画『タッチ』『涙そうそう』『モテキ』『キングダム』、ドラマ『ドラゴン桜』『セーラー服と機関銃』『ラスト・フレンズ』『真田丸』『コンフィデンスマンJP』など、出演作ごとに自身の女優としてのイメージを、その実力で上書きしてきた長澤。これからも、その進化は止まらない。(取材・文:望月ふみ 写真:ヨシダヤスシ)
映画『MOTHER マザー』は7月3日より全国公開。