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劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』はなぜここまで魅力的なのか リモコンが象徴するほろ苦い真実

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劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』メインビジュアル
劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』メインビジュアル (C)2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

 劇場公開からわずか19日間で興収100億円を突破した劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』。これは前作の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の推移を凌駕する成績であり、劇場版が3年連続で100億突破したことでも注目を浴びている。この100億突破とは、決して簡単なことではない。2024年にこの記録を打ち出したのは『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』と『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の2作のみ。2023年も『名探偵コナン 黒鉄の魚影』と『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の2作だけ。日本では毎年1000本を超える映画が公開されていることを踏まえると、ますますこの結果の凄さが際立つ。一体それは何故か。本作の魅力を紐解きつつ、最新作では何が描かれていたのか考えていきたい。(※本稿には劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』の一部ネタバレが含まれます。ご了承の上、お読みください。)

【写真】蝶ネクタイの代わりにリボン型マフラーを身に着けたコナン

■作品としての抜かりなさ 何度も観ることで深まる解像度

 本作の舞台は長野。長野といえば、原作・アニメでもお馴染み“長野県警組”こと大和敢助、諸伏高明、上原由衣の3人が本作でも重要な役として登場する。特に大和に関しては隻眼になった背景……犯人追跡中に遭った雪崩事故の真相が描かれるため、主役級の活躍だ。そしてある日、その雪崩事故を調べていた毛利小五郎の刑事時代の相棒、鮫谷浩二から小五郎の元に一本の電話がかかってくる。後日会う約束を取り付けた2人だったが、待ち合わせ場所で鮫谷は何者かによって射殺される。こうして小五郎と江戸川コナン、毛利蘭は鮫谷の追っていた雪崩事故と深い関係のある長野に向かうのだった。

 多くのアニメ映画が昨今、週替わりの劇場入場特典を配布することで興行収入を伸ばしているのに対し、劇場版『名探偵コナン』はそれがなくてもリピートする観客が多い印象だ。しかし本作は昨年の『100万ドルの五稜星』と比べて、服部平次や怪盗キッドなど、劇場版だけを追っていても多くの人が知っているようなキャラクターがメインの作品ではない。作風もシリアスな印象だ。しかし、そこが良い。昨年のアトラクション的な映画をリピートする楽しみ方とは違って、今作は複雑に絡み合うキャラクター同士の感情を堪能するドラマであり、何度も鑑賞を重ねることで、映像の中の描写や説明がより拾えていくような作品と言えるだろう。

劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』より (C)2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
 今作でシリーズ初監督を務めた重原克也が「あまり説明しすぎないでも、理解してくれるものを目指しています」「できれば、何回も観て、噛み砕いて、自分なりに解釈してくれたらうれしいです」と公式インタビューで語っているように、本作は映像の中であらゆる事象についての説明がされている。

 例えば、犯人が証拠を身に着けたままだったこと。鑑賞者的には「なぜ、わざわざ証拠になるものを捨てなかったのか」と疑問に思いやすいシーンだが、ある“フラッシュバック”の挿入によって、それが犯人にとって大切なものだったことが示唆されている。

 このようにもたげた多くの疑問が作品の中で概ね解消される作りに好感が持てる。また、例えば警視庁に風見がいたシーンでは、彼が電話をするフリをするが、それが“フリ”であることが彼の携帯が通話画面ではなく待ち受け画面(彼の推している沖野ヨーコの写真)のままだったことから理解できたり、舟久保真希の墓の周りの雪が溶けて土が暖かいことへの説明として、大友/鷲頭隆が炭を土に混ぜていたことが回想の映像で明かされたりと、本作にはこういった映像的説明が多く、いわゆる“説明せりふ”のようなものはない。

 一方で、ちゃんと天文台で少年探偵団が説明を受けるシーンなどは、彼らを通して劇場の子どもが(そして大人も)専門的なことが理解できるようになっていて、この言語的な説明と非言語(映像)的な説明の塩梅、子ども向けと大人向けの理解力のバランスなどが非常に長けているのだ。

劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』より (C)2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
 特に個人的に好きだったのが、コナンが今回の劇中で“リボン型”のマフラーをつけていること。これは今回、毛利小五郎が“眠らない”ため、使用されない蝶ネクタイ型変声機の代わりになっているのが面白い。そしてこれがクライマックスのアクションシーン(青山剛昌が手がけた原画シーン)で解かれ風になびくのだが、それが映画の序盤で少年探偵団が観ていた「仮面ヤイバー」の赤いマフラーに重なるのだ。つまり、普段の名探偵の装いから“ヒーロー”の装いに変わる“変身シーン”でもあって、この後のとんでもないフィジカルアクションを全てファンタジーとして観ることができるように「現実」と「非現実」の境目の役割も担っている。こういった視覚情報に表面的な情報以上の意味を持たせる点も魅力的だ。

 なお、本作は暗転を多用している。本来、場面転換や回想などのシーンの区切りに活用される暗転だが『隻眼の残像』では暗転中に前シーンのキャラクターの言葉が重なることで、せりふに余韻を持たせつつスピーディな場面変更が行われていて、そういった点にもこれまでの劇場版『名探偵コナン』で複数回演出として参加してきた重原監督のテクニックが見受けられた。

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■櫻井武晴の脚本だからこそのキャラクター掘り下げ

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