水瀬いのりが信じるヒーロー像「今日の自分の頑張りが、未来の誰かの支えになるかもしれない」

フジテレビほかにて毎週日曜9時30分から放送中のテレビアニメ『TO BE HERO X』。人々からの“信頼値”によってヒーローランキングが変動する世界を舞台に、10人の個性的なヒーローと、彼らを取り巻くキャラクターたちが次々と登場する。そんな本作で、“幸運”をその身に宿しながらも、“普通でいたい”と願う少女・ラッキーシアンを演じたのは、声優・水瀬いのり。キャラクターとの共鳴から、自身が考える“ヒーロー像”、そして信頼を育むためのコミュニケーションまで。丁寧に言葉を紡いで語られた彼女の想いには、確かな強さとやさしさが宿っている。このインタビューを通して、その静かな情熱に、きっと心を動かされるはずだ。
【写真】水瀬いのり、笑顔も真剣なまなざしも…撮りおろし満載のインタビューカット
■“普通でいたい”少女が選んだヒーローの道
――『TO BE HERO X』の世界観やストーリーの印象について教えてください。
水瀬:最初に「ヒーロー」という言葉を聞いたときは、やっぱり世界を救うとか、特別な能力を持っているとか、そういうスケールの大きな存在を想像していたんです。でも『TO BE HERO X』が描いているのは、そのもっと“根っこ”の部分。誰かに憧れられたり、希望を託されたり。そんな、人と人との信頼関係の中にヒーローの本質があるということに気づかされました。「誰か一人の希望になれたら、それはもうヒーローなんだ」っていう感覚を、この作品を通してあらためて思い出させてもらったんです。
だからこそ、この物語はヒーローを“遠い存在”ではなく、“すぐそばにいるかもしれない存在”として描いているように感じました。きっと現実の世界にも、目立たなくても誰かを支えたり、そっと寄り添っている“ヒーロー”がいるんじゃないかって。作品を通じて、そんなふうにヒーローを身近に感じてもらえることが、とても素敵だなと思いましたし、演じながらも胸があたたかくなる瞬間がたくさんありました。
そしてもう一つ、この世界で印象的だったのが、「ヒーローも人間である」という描き方です。どれだけ恵まれた力を持っていても、心が揺らげば、それを保ち続けることはできない。恐れや迷い、不安といった“弱さ”を抱えているからこそ、信頼を得ることの意味が大きくて。人は完全じゃない。だからこそ、誰かを信じること、信じてもらえることの重みがよりリアルに感じられる。
この作品は、ヒーローの“かっこよさ”だけじゃなくて、“内面の強さ”や“人間らしさ”まで深く掘り下げているところが魅力だと思います。本当の強さとは何か……それを問いかけてくるようなストーリーなので、ぜひ多くの方にその答えを感じ取っていただけたら嬉しいです。
テレビアニメ『TO BE HERO X』キービジュアル(C)bilibili/BeDream, Aniplex
――ラッキーシアンを演じるにあたり、特に大切にしたことはありますか?
水瀬:私が演じるラッキーシアンは、登場するまで時間があったので彼女の過去や、なぜヒーローになったのかという背景に集中して向き合うことができました。特に、幼少期から特別な環境にいたことで、恵まれているように見える反面、ずっとそのことで悩み続けてきた。そういう“影”の部分を大切に演じました。
“幸運を味方につけて戦う”って、一見とても特別なことのように思えて、実は彼女自身はそれを誇ったり、自覚しているわけではないんです。むしろ、その力があるがゆえに感じてきた葛藤や、どこか「本当にこれでいいのかな?」という迷いが、彼女の根底にあると感じました。
彼女は決して底抜けに明るいわけではなくて。周囲からは「ラッキーで羨ましい」と思われるような存在かもしれませんが、本人にとってはその力がむしろ「自分を縛っている」と感じている節もあるんです。だから私は、彼女が「私は幸運なんだ」と自覚しているようには演じませんでした。
どこかで「これでよかったのかな」と思いながら、それでも前を向こうとしている。そんなラッキーシアンの繊細な揺らぎを通して、“ヒーローって本当に完璧じゃなくていいんだよ”というメッセージが伝わったら嬉しいです。彼女の幸せそうな笑顔が、見る人によってはちょっと切なく映るかもしれない。そんな余白を残しながら、心を込めて演じました。
――“幸運”が彼女のヒーロー性を象徴するものでありながら、そこに相反する感情があるのですね。
水瀬:彼女って、本当に“普通”でいたい子なんです。でもその「普通」を求める気持ちとは裏腹に、彼女の体質や置かれた状況は、どうしてもそれを許してくれない。特に印象的だったのは、彼女が自分の意思とは関係なく“助かってしまう”瞬間が描かれているシーンです。危機的な状況に陥っても、彼女だけが運よく無傷で済んでしまう。それは他のヒーローたちのように“力を発動する”というより、彼女自身の存在そのものが幸運を引き寄せているようなものなんです。
たとえば、「ラッキーシアン編」2話(第9話)のトラックが突っ込んでくるシーンでも、彼女の意志とは無関係に幸運が作用して、危機を回避してしまう。それってすごく特異で、だからこそ“ラッキーシアン”という存在が際立つんですよね。本人は普通に生きたいだけなのに、なぜか運命に引き戻されてしまうような。演じながらも、「こんなところでもその力が発動するのか」と驚くことが多くて、あらためて彼女のヒーロー性の独自さ、そしてその中にある孤独を感じさせられました。
――ラッキーシアンとご自身が重なる部分はありますか?
水瀬:シアンって、どこにいても“自分らしさ”を崩さない子だと思うんです。私自身も、環境が変わってもあまり自分が大きく変わるタイプではなくて、そこはすごく似ているなって感じます。
特に印象的だったのは、シアンが“わからないことはわからない”ってちゃんと言えるところ。たとえ相手が目上の人であっても、自分の気持ちを大切にして、疑問に対して正面から向き合おうとする。たとえばクイーンさんとのやり取りでも、ただ流されるのではなくて、ちゃんと自分の気持ちを持って接していく姿勢に、「わかるなぁ」って強く思いました。
私自身も、自分の中に解決できていない感情や、ちゃんと向き合いたい気持ちがあると、すぐにやり過ごすのではなく、ちゃんと時間をかけて考えるタイプなんです。“その場をうまくやりくりする”よりも、“次に進むために一度立ち止まる”という選択をする。そういうところに、すごくシアンらしさを感じるし、自分と重なる部分として共感しながら演じていました。