花澤香菜×信頼値の世界――任された瞬間に宿る、プロとしての矜持
――“信頼”がスーパーヒーローを生み出すという設定の本作ですが、花澤さんが他者から「信頼されている」と感じるのは、どんなときですか?
花澤:お仕事の中で言うと、最近は特に最終回に突然登場して意味深なことを言って去っていくような、「あれ、この人何者!?」ってなるような役どころを任されることが増えてきたんです。
そういうポジションって、物語の流れにすごく影響を与える存在だったりするので、任されるたびに「これって信頼してもらえているってことなのかな? それとも、試されているのかな?」なんて思ったり(笑)。でもやっぱり、何かしらの“期待”を感じられるのは嬉しいですね。
たとえば、黒幕だったり、二重人格のキャラクターだったり、自分でも「これ、演じ切れるかな?」ってちょっと不安になるような役をいただいたときに、「あ、もしかして今、少し信頼値が上がったのかもしれない」って、ふと思うことがあります。
直接的な言葉があるわけじゃなくても、任せてもらえるということ自体が、一つの“信頼のかたち”なんだなって。そういうときは、見えないものがじんわりと心に届いたような、そんな感覚になります。
――そうした信頼関係を築くうえで、特に大切にしてきたことはありますか?
花澤:一番大切にしてきたのは、やはり「監督が求めているものに応えること」。もう、それしかないと思っています。つまり、期待にどう応えるか。その積み重ねが、信頼につながっていくのかなと。
新人の頃、すごく激しいギャグアニメに出演したことがあって、私はそのときツッコミ役だったんです。でもそのツッコミって、本当に技術がいるもので、ある音響監督さんに「お前はまだお笑いがわかってない。新喜劇を観てから来い!」と言われたことがあって(笑)。
最初は戸惑ったんですけど、素直に観てみたら、すっかりハマってしまって。笑いのリズムや間合い、観客との距離感はすごく勉強になりました。自分にとって未知だった世界に踏み込むきっかけをもらえたのは、本当にありがたかったですし、「信頼に応えるって、こういうことなんだな」って実感しました。
信頼されるには努力が必要だし、その努力を続けていかないと、きっとこちらの信頼も続かない。だからこれは、きっと一生続く課題なんだと思います。
――それで今では、“お笑いの天才”みたいな存在に……?
花澤:いやいや、そんなことないです! 恐れ多いですよ(笑)。でも、そうですね……以前ご一緒した監督が、また別の作品でも声をかけてくださると、やっぱりすごく嬉しいです。「またこの人と仕事がしたい」と思ってもらえたのかなって思える瞬間は、特別ですよね。
「こんな役もできそうだな」「こういう面も引き出してみたいな」と思ってもらえたことが、次につながっていく。それって、何よりの信頼の証だなと思います。
――役者冥利に尽きる瞬間ですよね。一方で、表現の世界では「自分を信じること」と「周囲の評価を信じること」が矛盾する瞬間もあるかと思います。そうした“ズレ”と、どう向き合ってこられましたか?
花澤:私、自分の感覚を「絶対」だとは思わないようにしているんです。どんな現場でも、まずは“弾”をたくさん用意しておく。でもそれは、すぐに捨てられるくらいの軽やかさも持っていたくて。だから、アフレコ前に家でセリフを何度も声に出して練習することは、あまりしないんです。
もちろん、ト書きやセリフを読んで、「このキャラクターはこういう気持ちなのかな」とイメージを膨らませることはします。でも、あまりにも事前に作り込んでしまうと、それにこだわりすぎて現場で柔軟に対応できなくなってしまう気がして。
だから、現場でリテイクを何度もいただいたとしても、「自分が間違っていたんだ」とネガティブに捉えすぎないようにしています。むしろ、その場で新しく見つかる何かがあるかもしれないって、できるだけ柔らかくいたいなって思っています。
ズレが生じること自体は当然ある。でも、だからこそ、固執せずに開いておくことが、私にとっての「信じ方」なのかもしれません。
――最後に、「クイーン編」を楽しみにされているみなさんへメッセージをお願いします。
花澤:まだみなさんにとって、クイーンというキャラクターは「謎の多い存在」だと思います。小さい頃から天才で、人を寄せつけないオーラもあって、近寄りがたい印象があるかもしれません。
でも実は、彼女の中には一本しっかりとした“芯”が通っていて、物事を深く考えて、自分なりに世界と向き合っている女の子なんです。そんな彼女の内面に触れてもらえたら、少し親近感が湧いてきたり、「応援したいな」と思ってもらえるようなキャラなんじゃないかなって思います。
これから先、クイーンの意外な一面やギャップもどんどん描かれていきますし、人間らしい表情もたくさん見えてくると思います。そして、彼女が活躍する「クイーン編」では、ものすごく熱い戦いも待っています。戦闘シーンもヒーローものの醍醐味の一つなので、ぜひ楽しみにしていてください!
(取材・文・写真:吉野庫之介)
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