『母の聖戦』テオドラ・アナ・ミハイ監督、「この物語を人々に伝えなければと感じて、自分のエネルギーすべてを捧げた」
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娘を誘拐され命がけの闘争に身を投じた女性の実話を基に、メキシコの誘拐ビジネスの実態を暴いた映画『母の聖戦』より、テオドラ・アナ・ミハイ監督のオフィシャルインタビューが到着した。
【写真】『母の聖戦』メイン画像
本作は、誘拐された我が子の奪還を誓った母親の愛と執念を描き、知られざるメキシコの誘拐ビジネスの闇に迫る社会派クライム・スリラー。現代のヨーロッパを代表する名匠のダルデンヌ兄弟、『4ヶ月、3週と2日』でカンヌ映画祭パルムドールに輝いたクリスティアン・ムンジウ、『或る終焉』などで知られるメキシコの俊英ミシェル・フランコがプロデューサーとして参加し、テオドラ・アナ・ミハイ監督の劇映画デビュー作となった。
メキシコ北部の町で暮らすシングルマザー、シエロ。ある日突然、彼女のひとり娘である10代の少女ラウラが犯罪組織に誘拐された。冷酷な脅迫者の要求に従い、20万ペソの身代金を支払っても、ラウラは帰ってこない。警察に相談しても相手にしてもらえないシエロは、自力で娘を取り戻すことを胸に誓い、犯罪組織の調査に乗り出す。そして、軍のパトロール部隊を率いるラマルケ中尉と協力関係を結び、組織に関する情報を提供したシエロは、誘拐ビジネスの血生臭い実態を目の当たりにしていく…。
このたび、テオドラ・アナ・ミハイ監督のオフィシャルインタビューが到着。ルーマニア生まれでベルギーを拠点に活動するミハイ監督が、メキシコの誘拐ビジネスを題材にした作品を作るに至ったのは、16歳の時サンフランシスコに留学した際にメキシコをルーツに持つ友人がたくさんできてメキシコに親しみを持ったこと、そして久しぶりにメキシコを訪ねた際、麻薬戦争の勃発により街の様子が一変し、市民の日常が危険に晒されていたことに衝撃を受けたからだと語る。
さらに、主人公のモデルとなったミリアム・ロドリゲスという一人の女性との出会いが映画化を決定づけた。「彼女が私に最初に言ったことのひとつが『毎朝起きるたびに、拳銃で自殺するか、人を撃ちたい』というものだった。この人は主婦なのよ。この人がこんな風に話すには一体どんなことを経験したの? このことが私に、『母の聖戦』の物語を伝えなくてはと決心させた。そして、この環境に生きる子どもではなく、自身の子どもを探す母親の視点でこの物語を語るべきだと気がついた瞬間だった」と振り返る。
そして「(主人公シエロは)母親の原始的な強さがあって、ライオンの雌のように、子どもを守るためには何でもやるの。これはとても普遍的なもの。なぜならどんな文化的背景を持つ人でもこれを理解するし、自分自身が親でなくても自分は誰かの子どもだから。女性の主人公がこれを表現できると思っていた」と、母親の視点で描くことを決めた理由を明かした。
本作は当初ドキュメンタリーで撮ることを想定していたが、リスクを考慮してフィクションに変更されることに。「この物語とセンシティブな情報の特性上、観察する形式のドキュメンタリーを撮るのは極めて難しかった。フィクションにすることで、私たちが言いたいことを正確に言う自由が得られると考えた」と、安全面に配慮しつつ説得力のある作品をつくるため、フィクションで撮ることに決めたという。
実際の撮影では安全のために「必要最小限の人にだけ知らせて撮影をしていた」そうで、「自分の国じゃない国へ行って映画を撮るのはとてもストレスのかかること。パンデミックの間は特にね。だけど私は挑戦することが好きで、そうすることで自分の一番良いところがひきだされた。この物語を人々に伝えなければと感じて、自分のエネルギーすべてを捧げた」と、逆境を力に変えて、決死の覚悟で挑んだことを明かした。
劇映画デビュー作となった本作が、カンヌ映画祭の「ある視点」部門でプレミア上映されたことについては「素晴らしく光栄なこと。すべての映画監督がこの美しい舞台を夢見ている。(カンヌで上映されるということは)この映画は旅をして、人に観られて、話題になるということだから。物語を語るとき私たちが望むことは、それが共有されることなの。特にパンデミックの中で映画を製作した後にその作品をカンヌの観客と共有することは、より特別に感じる」と喜びを語っている。
映画『母の聖戦』は、1月20日より全国公開。