『silent』第8話キーワードは「疲れる」 紬と想のように、奈々と春尾も出会い直せたら
かつて春尾が「奈々!」と背後から声をかけたとき、振り返り、クシャっと無邪気に笑った奈々。ふたりの距離は確実に近づいていた。でも、もっと近く、かけがえのない相手となる前に、離れてしまった。急速に好きになったから、急ぎすぎたのかもしれない。だからもっと近づくために、相手に「何かしてあげたい」と思った。それだって間違いとは言えない。でも結局、それとは気づかず、急ぐ自分に疲れてしまった。奈々と春尾とは違い、紬と想には、状況が変わっての再会とはいえ、高校時代にかけがえのない相手同士として関係を築いていたベースがある(だからこそのジレンマもあるが)。
奈々が、紬と想に「上手くいってほしい」と思う気持ちは本心だろう。そして「聞こえるとか、聞こえないとか、関係ないって思いたいから」というのも。ラスト、ぎくしゃくした状態が決定的な裂け目となる前に、紬はきちんと想に自分の気持ちを伝え、想も受け止めた。春尾と再会した奈々は、思い出の大学ノートに春尾に向けた手紙を書いた。そこにはどんな気持ちが書かれ、春尾にはちゃんと伝わるだろうか。春尾が、「桃野さん」ではなく、「奈々」と呼びかける日はまた来るだろうか。(文:望月ふみ)