相次ぐ出演作…ニコラス・ケイジが今、忙しい“ワケ”
ニコラス・ケイジが、忙しい。今月、日本では『ダークサイド』(本日公開)と『マッド・ダディ』(6月23日公開)の2本が公開になるが、フィルモグラフィーによると、今年の彼の出演作は、すでに6本。昨年、一昨年はそれぞれ5本で、まさに働き通しである。だが、アメリカの観客は、その事実にほとんど気づいていない。業界人ですら「そんなのあった?」と言うような作品ばかりだからだ。中には、配給がつかず、アメリカでは劇場公開されずに終わったものも多い。
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ケイジはかつて、アクションも、コメディも、シリアスな演技もこなせるマルチな実力派として尊敬を集めていた。1990年にはデビッド・リンチの『ワイルド・アット・ハート』に主演、5年後の『リービング・ラスベガス』でオスカーを受賞し、その後はジェリー・ブラッカイマー製作の娯楽大作を次々に当てて、1作品あたり2000万ドルのギャラを得られる、ごくひと握りのスターの仲間入りをする。
そのリズムが狂い始めたのは、やはりブラッカイマー製作の『魔法使いの弟子』(2010)がコケたあたりからだ。その半年後に公開された『ドライブ・アングリー3D』はさらにひどく、全米9位デビューという、当時の彼には考えられない、情けないオープニングだった。以後、2000スクリーン以上の規模で北米公開されたのは『ゴーストライダー2』(2011)と、声の出演をしたアニメ『クルードさんちのはじめての冒険』(2013、日本未公開)だけ。ほかは低予算のB級映画で、華やかなプロモーションもなく、人目に触れる機会はますます遠のく。昨年、映画『オレの獲物はビンラディン』の前売特典として予定されていた、特製うまい棒の配布が中止になった騒動は、日本ではまだ忘れられていなかったことを証明する、むしろ、それほど嫌でもない出来事だったかもしれない。
しかし、なぜケイジは、ランクを下げてまで映画に出続けるのか? 答えはおそらく、そうしなければいけないから、である。
人気のピーク時に散財し、借金まみれになってしまった彼は、『ドライブ・アングリー』の記者会見で「また監督をしたいという気持ちはありますか?」と聞かれて、「僕はウサギの穴に入ってしまったもので(そんな余裕はない)。演技のほうが、そこから抜け出せる可能性が高いから、今はこちらをやらないと」と語っている。監督は、ひとつの映画に2年も3年も費やすが、俳優ならば1年に4、5本出ることが可能で、稼ぐ上では手っ取り早い。つまり、彼は、今もまだそれを続けているのだ。
とは言え、彼のやっていることを見下す理由は何もない。映画俳優組合に所属する俳優のうち、演技だけで生活できているのは5%程度だというし、その5%の人たちですら、選り好みができるわけではないのだ。黄金期のケイジのように、あれは嫌、これも嫌、ギャラはいくらでトレーラーは最新で最大のものを、などと要求できるのは、ごくごく一部。役者というのは浮き沈みが激しい仕事で、一度トップに上りつめた人ですら、確約はないのである。