『ウィキッド』監督が泣いて確信 「For Good」の演出をシンプルにした理由
「あれはエルファバにとって自然な仕草でした。シズ大学の場面では、顔より先に彼女の肌を見せたいという意図があり、デイナ・フォックスが脚本にその仕草を書いていたんです。なので大学生として最初に登場する場面は、彼女が髪の毛を横にはらって、爪や首だけが見えるカットになっています。エルファバがすごく自然でリラックスしているように見えるんです」とチョウは言う。
ところがシンシアは「どうしてそんなことするの? 普通はしないよ」と最初は理解できなかったそう。しかし会話をする中で、シンシアはエルファバのように無意識に髪の毛をはらった時があり、チョウは「『今の! それだよ!』ってシンシアに言ったんです(笑)」と図らずもシンシアが役とシンクロした瞬間があったと明かす。
そして再び、その仕草が登場する『永遠の約束』でのシーンは、『ふたりの魔女』とは少し違う意味も持つ。「世間はエルファバを“邪悪な魔女”だと思っていますが、この仕草は“彼女は同じ人間である”ということを表しています。フィエロ(ジョナサン・ベイリー)と『As Long As You're Mine』を歌うシーンでも同様の仕草をします。ただ髪をはらうという動作ではありますが、彼女が悪い魔女ではなく“人間”であることを映しました」とチュウは話す。
壮大な幕開けに続いて、豪華絢爛な結婚式、爆発的なエネルギーを放つ「No Good Deed」など、劇場という環境の恩恵を存分に受けることができる迫力あるシーンが複数展開される本作だが、最も重要な楽曲と言っても過言ではない「For Good」の演出は至ってシンプルだ。カメラは運命に寄り添うように、二人を静かに映し出す。
映画『ウィキッド 永遠の約束』メイキング写真 (C) Universal Studios. All Rights Reserved.
オーディションの際は、シンシアとアリアナは「For Good」を同じ空間で歌うことはできなかった。コロナ禍でロックダウン中だったからだ。二人が顔を合わせたのは、キャスティング後。チュウはロンドンに行く前に、二人を夕食に招いた。
その場には、作曲家のスティーヴン・シュワルツや脚本のウィニー・ホルツマン、プロデューサーのマーク・プラットも居合わせ、シュワルツが『1曲やってみる?』と食後にピアノを弾き始めたという。その曲が「For Good」だった。
シンシアとアリアナが一緒に歌ったのは、この瞬間が初めて。「彼女たちが歌い終わる頃にはみんなが泣いていて、その時に『この映画はイケる』と確信しました。二人は歌詞を完全に覚えておらず、ピアノの横で歌詞を読みながら歌っていましたが、この“シンプルな状態”がどれだけ強い力を持つのか分かったんです」と美しい思い出を回顧する。
映画『ウィキッド 永遠の約束』場面写真 (C) Universal Studios. All Rights Reserved.
続けてチュウは「たくさんの巨大なセットを用いて撮影してきましたが、『For Good』はシンプルなセッティングで十分に伝わりますし、大きなセットに負けない楽曲の強さがありました」と今回の演出を決めた理由も吐露。
「楽曲の内容も演出とリンクしています。『For Good』は、エルファバとグリンダが、別れを告げるだけではなく、人生の余計な部分を削ぎ落として、ただお互いを見つめる歌なんです。『大丈夫』と言いますが、二人ともそんな確証はない。それでも相手を自由にするために、お互いを守ろうとするんです。友だちに対してできる、最も美しい犠牲だと思います」と熱を込める。
映画『ウィキッド 永遠の約束』場面写真 (C) Universal Studios. All Rights Reserved.
1979年に米カリフォルニアで生まれたチュウは、現在46歳。人生の中で、素晴らしい出会いも別れも経験してきたと言い、本作は「友情の話であると同時に、人生で手放さなければいけないものの話でもある」と作品の核を語る。
「子供の頃や大学時代、最初の仕事の仲間など、人生で出会った友人たちは、自分でも知らなかった僕の可能性を引き出し、人生を変えてくれました。しかし年を取ると、子どもができたり、引っ越しをしたり、優先順位が変わったりと、以前のように同じ関係ではいられないことに気付かされます。でも例え別れを告げることになっても、一緒に過ごした時間が無意味にはなりません」
「これはすごく繊細で難しいことなので、映画ではあまり語られないテーマだと思います。映画は起承転結があり、『いつまでも幸せに暮らしました』と終わる。でも僕は人生のほとんどはハッピーエンドじゃないと思います。ただ続いていくものなんです。だからと言って、旅の価値を味わえないというわけでもありません」
「本作が響くのは、友情がテーマであると同時に、人生で手放さなければいけないものの話でもあるからだと思います。現実世界でも、僕たちは別れを告げる瞬間に直面します。でも、それは世界の終わりではなく、僕たちが成長した証なんです」
「この映画は、愛する人との友情だけではなく、『さようならを言ってもいい』というメッセージも込められていると思います。自分たちが真実だと思っていたことが、違うこともあるでしょう。お互いが違う道を歩く姿を受け入れられれば、相手への怒りも減ると思います。思いやりがあれば、未来はきっと美しくなるんです。例え、どうなるか分からなくても」。(取材・文:阿部桜子)
映画『ウィキッド 永遠の約束』は公開中。

